《廻展する場景》は、偏光の原理を用いて、透明なフィルムに色をつけている。偏光板は、あるひとつの方向に振動する光の成分だけを通過させるようにつくられたもので、偏光板を二枚用意して その間にセロハンテープなどの透明なフィルムを設置して光を通すと、光の波長の傾きが変化する ことである色が強く出るという特徴を用いた。また、装置に組み込んだ偏光板の角度を変更することで色も変化する特徴も併せて利用した。 具体的には、偏光フィルターを通してテープを見るとテープに色がつき、またフィルターの影が壁に投影されるとそのフィルター部分にも色がつく。 そして、M5 Atom LiteをAtom Motionを用いて偏光板を回転させる機構を制作し、それによって偏光板の角度が変化し場景の色も激しく変わる。 液晶ディスプレイには偏光板が組み込まれているためそのまま使用したが、プロジェクターに関し ては、3Dプリンターを活用して偏光板をレンズの前に設置する治具を作り対応した。
《廻展する場景》は、インタラクティブ・インスタレーションとして制作したが、これはボタンを 押すことで展示空間内に設置したフィルムに色がつくからインタラクティブとしているのではない。本作品においてもっともインタラクティブな要素があるのは、展示空間内を「探索」するとい うところにある。
鑑賞者は、どのような色がどのような場所につくのかをわからない状態から作品を体験する。色は 偏光板の角度や回転時間は鑑賞者の操作によって確定し、色の見える範囲は鑑賞者の探索する位置 によって確定する。つまり、どのような位置、向きから装置を覗き込むか考える探索によって鑑賞 者一人ひとりの視覚も異なるため、探索を通して体験の没入感を強めることを可能としたといえ る。