難易度の高い整形外科症例に対し、CT画像から3Dプリンターによる模型を作製した上で手術計画を立てたところ、とてもスムーズに手術が出来た経験があった。 その理由として、従来のレントゲン写真やCT画像ではイメージしづらい部分の補助としての役割が大きかった。(スケール感・見えない部分の位置関係・感触・模型による実習) しかしながら、3Dプリンターによる模型の作製にも限界があり、たとえば粉砕骨折のように骨がバラバラになってしまった症例や、血管奇形や悪性腫瘍のように多数の細かい血管や組織が絡み合った症例などは不適となってしまう。 このような事情を踏まえて、現在急速に進歩しているARによるイメージングに注目することになった。
世界的にみるとARは、手術計画の共有や新人の教育・学習などの補助として発展し始めていることが伺える。 ただ、日本においてはその技術は高額な医療用画像管理システム(PACS)の一部もしくは半独占的な画像処理ソフト会社の権利下においてのみ利用され始めているのが実情である。 また、「医療機器」としての利用を考えた場合、手術事故や予期せぬトラブルが発生した場合の責任問題などの観点から、薬機法による制限を強く受けることになる。
上記のことより、現状のままであると将来的に獣医療でARが使えるようになったとしても、それはとても高額で様々な制約を受ける「医療機器」となる可能性が高い。 しかし、獣医療は人医療と違い医師法のように「医療機器」による制限を受ける部分は少なく、それに当たらない機器でもその多くはクライアントとの信頼関係と了承のもと使用することが可能な場合が多い。そもそも医薬品や機器に動物専用の物は少ない。 つまり、専門的な「医療機器」ではなく、あくまでも汎用的な「画像情報機器」の延長線上にこれらの技術を設定して、薬機法や他の権利などから独立した技術として確立していくことは十分に可能であると考える。
ARの技術は獣医療においても非常に未成熟な技術であり、その価値を多くの人に認めてもらうためには、一定水準の技術として早急に確立していくことは必須である。 その上で、大学病院などと連携し、教官もしくは研修医などに手術補助器具として体験してもらい、かつ学会や論文などで広く認知されるようになれば、この技術も一般的な画像検査機器としての地位を築けるかもしれない。